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生きづらさを感じるエッセイ『パリの砂漠、東京の蜃気楼』(金原ひとみ)

金原ひとみ綿矢りさ芥川賞をダブル受賞したときは、当時最年少(たしか)ということもあって、ものすごく話題になったのを覚えている。

受賞作はどちらも読んだのだけど、当時の正直な感想としては「ようわからん、、、」という感じであった。

金原ひとみの「蛇にピアス」も、詳細なストーリーは忘れてしまったけど、舌にピアスをあけるという、その生生しいシーンと、なんだか生きづらくてもがいている主人公だけが記憶にある。

 

そして「蛇にピアス」以来、久々の金原ひとみ作品を読みました。

『パリの砂漠、東京の蜃気楼』

こちらは小説ではなくて、エッセイです。

 

ジャンルが違うのに、なんだか蛇にピアスを読んだときと似た読後感なのが不思議。

パリと東京での暮しを綴ったもので、低空飛行のテンションのまま、日常のあらゆることをきっかけに、内面的な思考に入っていく。

 

ときどき登場する夫がぶっ飛んでいたり、パリっていう土地だったり、そういうところを除けば割合、普通の日常が書かれているように思うのに、それを金原ひとみの眼を通してみると、どうしてこうも生きづらい風景なのか。

仕事もバリバリこなして、2人の子どもも育て、ご飯も作り、交友関係もそつなくこなし、好きな音楽のライブにも行き、と、私からしたらめちゃくちゃハードでリア充すぎる日常なんだけれども、まったくリア充的な雰囲気はないんである。

 

『憂鬱』という単語が、これほど頻繁にでてくるエッセイも珍しいけど、きっとその憂鬱さがもうデフォルトになっているんだろうなぁ。

 

長年連れ添っているのに理解し合えない夫や、言葉の力を信じている作者と、話し合ってもどうにもならないという友人との埋められない溝。

こういうのを価値観の違い・考え方の違い、所詮は別の人間だものね、といってしまえばそれで終わりで、大半の人がそうやってやり過ごしていることを、やり過ごせない人の生きづらさ。

 

なんだろうな。

決して楽しいエッセイとは言えないのだけど、読むのをやめられない中毒性がある本。

この感覚もまた、「蛇にピアス」を読んだときと一緒だったなぁ。

ものすごく共感する、というわけではないのだけど、普段、深く考えないようにしていることにスポットを当てられて、正解も解決策もなく、あーやだなーと思いながら、見てみぬふりする感じに似ている。