女性に関するデータ不足が及ぼす影響は計り知れない:『存在しない女たち』(キャロライン・クリアド=ペレス)
先日、「存在しない女たち」(著者:キャロライン・クリアド=ペレス)を読んだ。
女性に関するデータ不足のために、あらゆる分野において女性が悪影響を受けているかも知れない、ということを分析している本。
もちろんある部分においては、データが存在しないために、著者の仮説も含まれてはいるけれど、それにしても思い当たる節がかなりあったのは事実。
たとえば、公共施設におけるトイレ。
男性トイレはいつも空いているのに、女性のトイレはいつも行列になっている。
これ、当たり前の風景すぎて、疑問にすら思わなかった。
でも、よくよく考えると、なんで、女性のトイレだけが混んでいて、男性のトイレは混まないのか。
そもそも、トイレの数は適正なのか??
男性トイレは小便器一台あたりの面積が小さいため、トイレ全体の面積が同じなら、女性トイレよりも設置する個数が多くできる。
また男性のほうが所要時間が短いため、女性と同じ個数にした場合、回転数(さばける数)が男性のほうが多くなる。
女性のほうが、トイレ一台あたりの面積が大きい、また生理中・妊娠中の場合には所要時間が長くなるために、平均所要時間が男性よりも長い。
だから、男女同じ面積でトイレの設計をしてしまうと、女性トイレが必要数を満たしていない可能性がある。
(もちろんその施設の用途によっては、男性のトイレを多くする必要がある場合もある)
ポイントは、こういうことを設計段階で考えているか?ということ。
設計段階で考慮するためには女性に関するデータが必要なのと、そのデータを活かさないといけない。
うーむ。
問題は公共施設だけじゃないです。
車や、スマートフォン、都市計画、住宅、農機具など、女性に関するデータが反映されていないものはたくさん。
一番衝撃だったのは、医療分野。
女性と男性で体の作りが違うのは、だれもが知っていることであるにも関わらず、まさかの医療分野においても、女性が無視されているらしい。
えぇぇぇ???
医療分野で??という衝撃。
どの分野よりも詳しいはずでは!?!?
と思ってしまった。
どういうことかというと、まず薬の開発で、女性と男性でどれくらい効き目に違いがあるのか(または悪影響があるのか)というデータ分析が不十分ということ。
男性の治験者しかいないために、もしかしたら女性には効くかもしれない薬が、開発されないままになっているかもしれない。
逆もあって、女性には悪影響がある薬が問題ないものとして使われていることもあるかもしれない。
なんにせよ、性別を分けたデータがない(少ない)から、わからない。
また、健康のためにどんな運動をすればよいのか、ということについても、男性中心の研究に基づいてアドバイスされているらしい。
最近流行りの「HIIT」。
これ、女性にはあまり効果がないという研究があるとのこと。
えーーー!!!!
おそらく、この本で紹介されていることは、氷山の一角なんだろう。
性差別主義者でないと自認している人ほど、性差別者的な振る舞いをしがちであるという研究データがあったり、女性研究者の論文は男性が書いた論文に比べてはじかれてしまうケースがあったり。女性研究者の論文は、女性が書いたとわからないようにしたら、雑誌に掲載される件数が増えたらしい。
自分に偏見はない、という思い込みこそ、偏見を助長しているのかもしれない。
ポイントは、この本にあげられている事例が、悪意によるものではないということ。
そうではなくて、女性のことが考えられていない、女性の意見が全く反映されていない、ということ。
悪意によるものではないからこそ、何世紀も改善されなかったのかもしれない。
この本に書かれていることを、夫に話してみた。
その時の反応はこんな感じ。
『その本はかなり内容が偏っているみたいだから、信じすぎないほうがいい』
読んでもいないのに、すごい感想だ(笑)
女性が女性の権利を主張すると、男性は自分の権利が脅かされる、と思うのかも知れない。
私の夫も決して性別差別主義者ではない(はず)。
それでも私の夫のような反応を示す人が、あらゆる社会にいるのかも。
ここまであからさまじゃなくても、潜在的にそう思っている人は多いのかもしれない。
そうなると、この本にかかれている問題は、かなり根が深そうだなぁ。
『存在しない女たち』(キャロライン・クリアド=ペレス)
男性にこそ、読んでほしいけれど、読んでくれるかしら。